『日本の名随筆 競馬』高橋源一郎編

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競馬が好きです。あそこでなら日がな一日、最終レースまでいても、時間を損したなどと思ったことはありません。レースとレースのあいだには、劇場や映画館の幕あいのような一寸したひまがあります。劇場ではあのひまをじれったがる私が、競馬場ではいらついたことがありません。いま済んだレースの残像が見えているんです。先頭の馬のしっぽの流れ、ビリの奴の耳のとんがり、そんなものが目に残っていて興奮しています。かと思うと、馬も騎手もぽっかり忘れはてて、なににつくともなきぼんやりした平安に、心みち足りていることもあります。
(「二番手」幸田文)



競馬について書かれた本を読むのが好きです。しかし、私が競馬好きとして知っている作家といえば、寺山修司や虫明亜呂無に山口瞳、宮本輝、高橋源一郎くらいでした。ところが、もうかれこれ10年以上前に『競馬 (日本の名随筆)』を買って、その目次に織田作之助、井伏鱒二、吉川英治といった文豪の名前が並んでいるのを見て驚きました。日本の名立たる作家たちが、競馬についての随筆を書いていたなんて。

なかでも幸田文の名前を見つけた時は、その意外性にビックリした。私が幸田文でイメージするのは、着物や台所といったいかにも古きよき日本の女性といったものだったので。
冒頭に引用したのは、『競馬 (日本の名随筆)』に収録されている幸田文の「二番手」という随筆の中の一文。これを読んだだけでも、幸田文がどれだけ競馬が好きだったのかが分かる。単純な私は、競馬好きというだけで親近感を覚えてしまう。

『競馬 (日本の名随筆)』には一体どんな作家の作品が収録されているのかを以下に挙げてみると、

競馬/織田作之助
競馬/井伏鱒二
天皇と競馬 ほか二篇/吉川英治
二番手/幸田文
野を駈ける光 競馬について(抄)/虫明亜呂無
競馬/木下順二
もぎたてのサラブレッド/古井由吉
東京ギャンブル大環状線(抄)/山口瞳
益田競馬の人々/吉永みち子
コーヒー屋で馬に出合った朝の話/長田弘
馬の形而上学/別役実
昨今馬名狂乱記/藤本義一
アート・ブレイキーに競馬が好きかと訊ねたら/武市好古
馬を見る目/井崎修五郎
超ミステリー・ワンダーランド 競馬犯罪アラカルト/山本一生
日本の古代競馬/長島信弘
競馬興行と競馬狂の話/初代桂小南
三人の師 修行時代 『装蹄師』第一章/柿元純司
ある調教師の横顔/河野洋平
ヒーロー、アンチヒーロー(抄)/植島啓司
さあ、ゲートが開いた(抄)/杉本清
馬を持つ夢/宮本輝
嫉妬させるもの/佐瀬稔
振り向いたジョッキー/伊集院静
空飛ぶ厩舎/安部譲二
罪の快楽/高橋直子
馬に学ぶ/佐藤愛子
クリフジはいずこに ほか二篇/寺山修司
マティリアル号の悲劇/原田康子
テンポイントの見た夢/石川喬司
夢の中で強いオグリが・・・・・・ 有馬記念まであと三日 ほか二篇/高橋源一郎

こんなにも多くの作家の随筆が収録されているのです。井崎修五郎、杉本清といった競馬ファンにはおなじみの方々の作品も。

寺山修司と虫明亜呂無が書く競馬エッセイは、群を抜いている。けれど、残念ながら二人が今の競馬について書くことはもうないのだから、誰かが跡を継いでくれないかな。もちろん、誰でもいいわけじゃない。文章が上手いだけではダメ。心から競馬を好きな作家でないと。宮本輝がもっと競馬について書いてくれたらいいのに。

他でいいなと思ったのは、古井由吉の「もぎたてのサラブレッド」。Wikiを見ると、どうやら古井由吉の競馬好きは有名なようで、『折々の馬たち』という本を出しているけれど、絶版みたいです。どうして、読みたいと思う競馬関係の本はいつも絶版なんだろう・・・。

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この『競馬 (日本の名随筆)』、確か以前は絶版になっていたような気がするのですが、どうやら復刊したようです。
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